こんにちは。社会保険労務士の大嶽です。
今回は障害年金の受給件数が最も多い精神の障害について、必ず知っておきたい等級判定ガイドラインについて解説をしていきます。
等級判定ガイドラインとは、精神の障害(てんかんを除く)に係る認定において、障害等級の判定時に用いる目安や考慮すべき事項を示したものです。
このガイドラインは、もともと障害基礎年金の認定事務を調査したところ、都道府県ごとに支給・不支給とされた件数の割合に地域差があったため、このような地域差を解消するために運用されることになりました。
障害年金は診断書や申立書など提出書類を総合的に判断して認定されますが、等級判定ガイドラインによって診断書等のどのような項目に着目して認定されているのか、これが見えてきました。
うつ病や双極性障害など精神の障害で障害年金を請求したいと考えているものの、なにか障害等級の目安になるものはあるの?など、悩まれている方もいるかもしれません。
このようなお悩みを持つ方に向けて、この記事をお読みいただき少しでもお役に立てれば嬉しいです。
精神の障害年金で目安となる等級判定ガイドライン
等級判定ガイドラインでは、①障害等級の目安を参考とし、②総合評価に考慮すべき要素について、認定医が専門的な判断に基づき、総合的に判定するとされています。
この記事では、それぞれ①障害等級の目安、②総合評価に考慮すべき要素の2つについて、それぞれ解説をしていきます。
①障害等級の目安
精神の診断書裏面を見ると左側に「日常生活能力の判定」および右側に「日常生活能力の程度」という評価項目があります。
障害等級の目安は、この評価項目を数字に置き換えて、この数字が下記表のどこに該当するのかを見ると、等級の目安がわかることになります。
①障害等級の目安
※等級の目安として注意したいのは、診断書の内容がこのガイドラインに示す①障害等級の目安に当てはまれば、必ずこの等級として決定されるわけではないことです。
あくまでもこの等級の目安を参考として、他の要素も考慮しながら総合的に判断されることになります。
※障害基礎年金は3級がないため、障害基礎年金の認定は、3級と書かれている部分は「非該当」と置き換えることになります。
診断書の見方:判定平均と程度
精神の障害の診断書(裏面)を下図に載せていますが、左側に「2 日常生活能力の判定(黄緑枠)」があり、これは(1)適切な食事から(7)社会性までの7つの項目があります。この7つの項目における平均評価(判定平均)と右側にある「3 日常生活能力の程度(青枠)」の数値の組合せにより、目安となる障害等級が示されます。
日常生活能力の判定(黄緑枠):7つの項目において程度の軽い方から1~4の数値に置き換えて、その7つの項目の平均値を算出したものが判定平均となります。
※この判定にあたっては、単身で生活していることを想定して医師が評価を行います。
日常生活能力の程度(青枠):日常生活全般において、精神障害による制限の程度を5段階で評価することになっています。
※今回は精神障害の場合を示していますが、知的障害の場合はそのすぐ下の項目になります。
この2つの数値の組み合わせが、①障害等級の目安で示された表中のどこに該当するかで等級目安が判断できます。
等級表の見方
日常生活能力の判定(緑枠)の項目について、例えば(1)適切な食事から(7)社会性までの項目がすべて「助言や指導があればできる=3」についた場合、判定平均は3.0になります。
日常生活能力の程度(青枠)に、この例では「(4)精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である」、に〇がつけられたとします。
これを等級表に当てはめてみると、この場合は2級とされるため、等級の目安は2級になります。
※障害等級の目安は総合評価の参考になりますが、個々の等級判定はその他の要素も含めて総合的に評価されるものであり、目安と異なる認定結果となることもあります。
ここまでが、等級判定ガイドラインにおける①障害等級の目安になります。
総合評価に考慮すべき要素
上でみてきた①障害等級の目安を参考としつつ、②総合評価に考慮すべき要素を認定医が総合的に判定し、等級判断を行います。ガイドラインでは以下に記載する5つの分野について考慮すべき要素が記載されています。
【考慮すべき5つの要素】
①現在の病状または状態像
②療養状況(入院・通院の状況、治療歴など)
③生活環境(同居人の有無、福祉サービスの利用状況など)
④就労状況
⑤その他
この5つの分野の要素について、共通事項・精神障害・知的障害・発達障害に分けて、考慮すべき要素とその具体的な内容例が示されているので、ここでは精神障害における考慮すべき要素について抜粋して記載することにします。
①現在の病状または状態像
考慮すべき要素 |
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認定の対象となる複数の精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断する。 |
ひきこもりについては、精神障害の病状の影響により、継続して日常生活の制限が生じている場合は、それを考慮する。 |
統合失調症については、療養および症状の経過(発症時からの状況、最近1年程度の症状の変動状況)や予後の見通しを考慮する。 |
統合失調症については、妄想・幻覚などの異常体験や、自閉・感情の平板化・意欲の減退などの陰性症状(残遺状態)の有無を考慮する。 |
気分(感情)障害については、現在の症状だけでなく、症状の経過(病相期間、頻度、発病時からの状況、最近1年程度の症状の変動状況など)及びそれによる日常生活活動等の状態や予後の見通しを考慮する。 |
②療養状況
考慮すべき要素 |
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通院の状況(頻度、治療内容など)を考慮する。薬物治療を行っている場合は、その目的や内容(種類・量(記載があれば血中濃度)・期間)を考慮する。また、服薬状況も考慮する。 通院や薬物治療が困難または不可能である場合は、その理由や他の治療の有無及びその内容を考慮する。 |
入院時の状況(入院期間、院内での病状の経過、入院の理由など)を考慮する。 |
在宅での療養状況を考慮する。 |
③生活環境
考慮すべき要素 |
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家族等の日常生活上の援助や福祉サービスの有無を考慮する。 |
入所施設やグループホーム、日常生活上の援助を行える家族との同居など、支援が常態化した環境下では日常生活が安定している場合でも、単身で生活するとしたときに必要となる支援の状況を考慮する。 |
独居の場合、その理由や独居になった時期を考慮する。 |
④就労状況
考慮すべき要素 |
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労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受ける援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する。 |
援助や配慮が常態化した環境下では安定した就労ができている場合でも、その援助や配慮がない場合に予想される状態を考慮する。 |
相当程度の援助を受けて就労している場合は、それを考慮する。 |
就労の影響により、就労以外の場面での日常生活能力が著しく低下していることが客観的に確認できる場合は、就労の場面及び就労以外の場面の両方の状況を考慮する |
一般企業(障害者雇用制度による就労を除く)での就労の場合は、月収の状況だけでなく、就労の実態を総合的にみて判断する。 |
安定した就労ができているか考慮する。1年を超えて就労を継続できていたとしても、その間における就労の頻度や就労を継続するために受けている援助や配慮の状況も踏まえ、就労の実態が不安定な場合は、それを考慮する。 |
発病後も継続雇用されている場合は、従前の就労状況を参照しつつ、現在の仕事の内容や仕事場での援助の有無などの状況を考慮する。 |
精神障害による出勤状況への影響(頻回の欠勤・早退・遅刻など)を考慮する。 |
仕事場での臨機応変な対応や意思疎通に困難な状況が見られる場合は、それを考慮する。 |
⑤その他
考慮すべき要素 |
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「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」に齟齬があれば、それを考慮する。 |
「日常生活能力の判定」の平均が低い場合であっても、各障害の特性に応じて特定の項目に著しく偏りがあり、日常生活に大きな支障が生じていると考えられる場合は、その状況を考慮する。 |
依存症については、精神病性障害を示さない急性中毒の場合及び明らかな身体依存が見られるか否かを考慮する。 |
日本年金機構HP:『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』等
医師に自分の状況を正確に伝える
ここまで見てきたように、①障害等級の目安②総合評価に考慮すべき要素が等級判定ガイドラインで示されたことにより、診断書の内容から障害等級に該当しそうか否かの見当をつけることができるようになりました。
ただし、障害等級の最終的な判断においては、様々な要素を考慮した上での総合評価で決定されるため、目安と異なる認定結果となることもあります。
今回、等級判定ガイドラインの説明で見てきた診断書は、医師が記載することになります。
その場合、普段の定期通院の中だけでは、自分の状況を細かくお伝えすることが難しい場合もあるかもしれません。
医師に診断書を依頼する際に、診断書の項目(日常生活能力の判定や程度、就労状況など)に沿って、自分の状況を紙でまとめてメモなどを用意しておくと、大事なポイントを漏らすことなくお伝えすることができると思います。
この他、なにかお困りの時は社労士に相談してみてください。
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