知的障害における障害年金
知的障害とは
知的障害は精神遅滞ともあらわされる知的発達の障害になります。おおむね発達期(18歳頃まで)にあらわれるものとされており、一般的には知能指数(IQ)によって、軽度、中度、重度、最重度に分類されています。
この記事では、知的障害と障害年金に関して解説をしていきます。
療育手帳の等級
知的障害があるお子様は療育手帳を取得されている方も多く、療育手帳の等級は下記のように定められています。
※ここでは参考として、千葉県における療育手帳の等級を抜粋して掲載しています。
程度 | 等級 | 判定の基準 |
最重度 | Ⓐ | 知能指数がおおむね20以下の者で日常生活において常時の介助を必要とする程度の状態にある者 |
重度 | A1 | 知能指数がおおむね21以上35以下の者で日常生活において常時の介助を必要とする程度の状態にある者 |
重度 | A2 | 知能指数がおおむね36以上50以下の者で視覚障害、聴覚障害、肢体不自由を有し、身体障害者福祉法に基づく障害等級が1級、2級または3級の手帳を所持しており、日常生活において常時の介助を必要とする程度の状態にある者 |
中度 | B1 | 上記以外の者で、知能指数がおおむね36以上50以下の者で日常生活において介助を必要とする程度の状態にある者 |
軽度 | B2 | 知能指数がおおむね51以上75程度の者で日常生活において介助を必要とする程度の状態にある者 |
知的障害による障害年金の認定基準
知的障害による障害年金の認定基準は下記になります。この認定基準は、療育手帳の制度や判定基準とは異なるため、療育手帳の等級や知能指数だけで障害年金の等級が決まるわけではありません。
程度 | 障害の状態 |
1級 | 知的障害があり、食事や身のまわりのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活が困難で常時援助が必要とするもの |
2級 | 知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの |
3級 | 知的障害があり、労働が著しい制限を受けるもの |
【ポイント】
①知的障害の認定に当たっては、知能指数のみに着眼することなく、日常生活のさまざまな場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断するとされています。
知的障害とその他の認定対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定するとされています。
②日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって、判断するよう努めるものとされています。
③就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労をしている者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事しています。このことから、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断することとされています。
知的障害でもらえる障害年金の金額
知的障害で障害年金を請求する場合は、障害基礎年金(国民年金)の請求になるため、下図の赤枠で囲まれた金額が年金額として支給されます。
※令和5年度の障害基礎年金1級は993,750 円、障害基礎年金2級は795,000円となっています(年金額は毎年の物価などを考慮し、毎年少しずつ調整がされます)。
障害基礎年金は、障害等級が1級および2級のみであるため、障害厚生年金のように3級までありません。
したがって、知的障害による障害年金は1級または2級に該当する場合に障害基礎年金が受給できます。
軽度知的障害でも障害年金は受給できるの?
軽度知的障害(B2)と障害年金
軽度知的障害(療育手帳の等級がB2)の場合、障害年金はもらえるのか?について、ご質問をいただくことが多くあります。
結論として、軽度知的障害でも障害年金は受給可能な場合があります。障害年金はその障害によって、日常生活や社会生活に制限があり、援助や支援をどの程度必要とするのか、これが最も大切になります。
上記の認定基準にも「知的障害の認定に当たっては、知能指数のみに着眼することなく、日常生活のさまざまな場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断する」とされていることから、療育手帳の等級がB2の軽度知的障害とされていても、日常生活に援助や支援が必要な場合は、障害年金が受給できることになります。
また、仮に就労をしている場合でも、障害者雇用で働いている場合など、職場における援助・支援状況、仕事内容などを考慮して障害の状態が認定基準に定める障害等級に該当していれば受給できる可能性があります。
知的障害による障害年金の診断書
知的障害で本来の認定日請求をする場合は、20歳の誕生日前後3カ月以内に病院を受診して、この期間の診断書を取得することで、20歳の誕生日の翌月分から年金が支給されます(請求書類の提出は20歳の誕生日以降になります)。
これから20歳の誕生日を迎える方は、この期間に病院の受診をすることを忘れないことが大切になります。
日常生活状況を正確に伝える
知的障害は、精神の診断書を医師に作成してもらいますが、この診断書の裏面「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」の項目については、医師が単身で生活をしていると仮定して診断書を作成します。
下図は、実際の診断書になりますが、「日常生活能力の判定」は診断書の左側(黄緑色)、「日常生活能力の程度」は診断書の右側(水色)になります。
「日常生活能力の判定」は、日常生活における7つの項目について、4段階で医師が評価を行い、「日常生活能力の程度」は、日常生活における全般的状況を5段階で評価を行います。
このことから、診断書を作成する医師へ日常生活状況を正確に伝えて、診断書にしっかりと反映してもらうことが大切になります。
障害等級の目安となる障害年金の等級判定ガイドラインについては、下記の記事で詳しく解説しています。
知的障害の障害年金に関する初診日や保険料納付要件
知的障害の初診日
知的障害の場合、初診日は出生日とされています。障害年金はその傷病により、初めて医師又は歯科医師を受診した日が初診日とされますが、先天性の知的障害の場合は、出生日が初診日とされます。
初診日に関する詳しい説明は、下記の記事で解説しています。
保険料納付要件
初診日が出生日(生まれた日)とされるため、保険料納付要件については問われないことになります。
このことから、もし20歳以降に年金を納めていなくても年金請求が可能となります。
ただし、原則的な障害年金とは異なり、一定の所得があると年金が支給停止になる所得制限があることなど、特別な規定もあります。
保険料納付要件に関する詳しい説明は、下記の記事で解説しています。
障害年金の保険料納付要件とは?特例とは?わかりやすく解説します!
※発達障害の初診日や保険料納付要件
今回は、知的障害に関する解説になりますが、 知的障害を伴わない発達障害の場合は、原則どおり初診日は初めて医師または歯科医師を受診した日が初診日とされます。
したがって、発達障害の場合は年金制度加入後に初めて病院を受診している場合には、保険料納付要件も満たしている必要があります。
知的障害に関する障害年金の病歴・就労状況等申立書
知的障害の場合は、出生日から現在までの日常生活や学校生活での出来事、受診歴、就労している場合は就労状況などを記載していきます。
これまで病歴・就労状況等申立書は、出生から現在までの状況を3年~5年ごとに区切って、その当時の状況を記載する必要がありました。
しかし、請求者の負担軽減を目的として、知的障害に関する病歴・就労状況等申立書は令和2年10月よりこの記入が簡素化されて、特に大きな変化が生じた場合を中心に3年~5年ごとに区切ることなく、まとめて記載をすることも可能になりました。
病歴・就労状況等申立書の様式は、下記の日本年金機構のHPから入手が可能です。
様式はPDFとエクセルの2つのファイル形式があるので、エクセルファイルで作成しておくと、下書きや修正の手間が少なくなるため、PCで作成することをおススメします。
今回は、知的障害における障害年金について大切なポイントを解説しました。
この記事が少しでも参考になれば、嬉しく思います。その他、なにか気になることはお気軽にご相談ください。
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